蒼と朱とが重なるトキ



 月が雲に隠されてしまった朧月の夜。
 紺色の空と対になるような濃い緑色の海原に二人、背中合わせのまま佇む男の子達が居た。
 一人は闇の色をそのまま取り込んだような艶やかな黒髪の男の子で、もう一人は朝焼けや夕焼けの微かな時間帯にしか見えない白々しい空の色を映しこんだ白銀色の髪の色を持つ子だった。

 互いに目を閉ざしたまま、手に持つ扇をゆっくりと持ち上げて空へと届けとばかりに。
 途端に一陣の風が海原を駆け抜けてゆき、一瞬の間を置いてひらり――と二人の扇が揺れて動き出した。
 黒髪の子のと、白銀の子が背中合わせで対になるようにゆっくりと、ゆらりと。

 どこからともなく吹き始めた風が濃い緑色の海原を波立たせる。
 風が吹き、音が生まれ、海原の草原は闇色の空の下で密やかに歌が生み出されてゆく。
 歌詞は無く、ただ触れ合った命が紡ぎゆく音が一つ、二つと重ねられて静かに和音を、歌を作り出す。

 たおやかな、けれど躍動感のある動きで男の子達二人は歌をなぞるかのように舞い続ける。
 右へ、左へと扇を八の字を描きながら歌に導かれるかのように、舞を捧げるかのように踊るのだ。

 一人が扇を空へと掲げればもう一人は地へと掲げるかのように膝を折る。
 ときおり吹き荒れる風を押しやるかのように扇を広げたまま勢い良く動かしたかと思えば扇を閉じて十字に空気を切りつける。

 二人の衣装についている飾りと共に扇に飾られている紐がくるり、くるくるりと楽しそうに揺れていれば不意に吹き荒れた風がぶつかり合いって空へと伸び上がるかのように空気が動いた。
 波打つ海原も、二人の衣装も、髪の毛も、そして彼ら自身の心すらも巻き込んで。

 背中合わせで踊り続けていた彼らはひらりと踊りながら足を軸に向かい合った。
 合わせ鏡のようになった二人はどちらからともなく閉ざされたままの目が開いた。
 黒髪の子は髪の毛と同じように黒い瞳に、白銀色の髪の子は紅の瞳に対となる相手を映しこんだまま扇を持たない掌を触れ合わせ、再び踊り始めた。

 やがて二人ははにかみながら、けれど確かに微笑み合って手に持っていた扇を風に乗せた。
 相手の瞳に己の写しこみながら、視線がぶれることなく重ねられたまま踊り続けた。
 扇を無くした二人は同じタイミングで両手を大きくゆっくりと広げ、口付けたまま鳥の姿へと戻り闇色の空へと羽ばたき、消えてしまった。

 風に乗せられた扇はどこまでも互いを追いかけるかのように遠くへと流せれて――。


    ――― END ―――

【 初出:2012/10/08−TwitLonger『 蒼と朱とが重なるトキ 』より 】