もたらされる熱



 日本はただ困惑していた。
 壁を背にしたままプロイセンの両腕が日本の動きを封じ込め、逃がさないとばかりに檻のような役割を果たしているせいだ。
 軽く腰を曲げているせいか普段とは違い日本とほぼ同じ位置に見えるプロイセンの顔は下から覗き込まれるようにしか見えず、逆に日本は見下ろす形になって。

 ――なにをしたいというのでしょうか?
 ――なぜ、こんなことを?

 そんな言葉が日本の脳内を駆け巡る。
 けれどプロイセンはなにも言わずただ日本を見つめているだけだ。
 日本にしてみればいい加減にしてください――と言えばいいだけなのにその言語すら上手く出すことが出来ず飲み込んでしまう。
 優秀なはずの日本の脳味噌には今の現状を打破する案が浮かばず、ただ分からないという単語だけが浮かんでは消えて。

 そんな時だった。  日本は思考の海から目の前にいるプロイセンに意識を戻されたのは。
 日本よりも若干熱いプロイセンの指先が日本の頬をゆっくりと撫でて。

 普段のどこか飄々とした姿は鳴りを潜め、真摯かつ大人の色香を漂わせたまま。
 今まで見たこともないプロイセンの態度に日本は驚愕しながらも狡い人だ――と理解せざる得なかった。
 己の身に巣食う熱すら相手に気が付かせないまま罠を張り、罠にかかった獲物を絡めとろうとしているのだから。

 どうすることも出来ないもどかしさと、悔しさのあまり日本は奥歯を噛み締める。
 その直後、普段呼ばれることのない名前を呼ばれわざと合わせないようにしていた視線が重なってしまう。
 体も、視線も、そして心すら絡め取られた錯覚に陥り日本は目尻が熱くなるのを感じた。

 なによりプロイセンが分かってやっているのが悔しくてたまらないし、質が悪すぎる。
 同時に普段の言動よりも今のプロイセンのほうが彼の本質なのだ、と思えて憤りをを覚えてしまう。
 思い切り睨んでみてもただニヤリと笑ったプロイセンはなにかを見つけたように視線を上へずらした。
 壁を背にしているために同じ場所が見えないはずなのに日本はつい釣られて顔ごと視線を上にあげた。

 ――それが罠だと気が付かずに。

 柔らかなぬめりを帯びたものが日本の喉を這いずり回る。
 それがプロイセンの舌だと理解した瞬間、喉仏を軽く吸われ日本は声を出してしまう。
 これ以上無いくらいに羞恥心が煽られ、同時に自分ですら聞いたこともない声を出してしまったことに日本の思考は掻き消えた。

 喉を舐められるたびに体が反応し、声が漏れてしまう。
 プロイセンからもたらされる熱に身動きが取れぬまま、日本は無意識に彼にしがみついた。
 その行為に気を良くしたのかプロイセンはおぼつかなくなってきた日本の足の間に己の足を割り込ませ、耳元でいつもの愛称を囁いた。熱を孕ませた甘い声で。

 崩れ落ちそうになった日本は意図して割り込まされていたプロイセンの足に一番感じるところを刺激されてしまい、甘ったるい悲鳴にも似た声をあげながら、唇を塞がれた。
 それがプロイセンの唇だと理解出来ないまま、彼からもたらされる熱を受け入れてしまう。
 ――幸福感を感じながら気を失ったその瞬間まで。


    ――― END ―――

【 初出:リメイク作品 その2 2012/07/15−TwitLonger『 もたらされる熱 』より 】