熟れゆく獲物



 月の無い夜、星明りが差し込むおかげで日本の寝室は辛うじて暗闇に支配されずに済んでいた。
 すでに散々喘がされ、泣かされた日本の視界は涙でぼやけ焦点が定まっていない。

 だからだろうか。
 暗闇の、それも近距離で見つけてしまった一対の紅い目を見た瞬間日本の脳内に喰われる――という言葉が浮かんだのは。
 同時に獰猛な獣の姿すらも浮かび、日本はその身を固くした。

「約束破ったのはそっちだからな、ちゃんとお仕置きしねーとなぁ?」

 言葉とは裏腹にプロイセンはこれ以上ないくらいに優しく日本に問いかけた。
 両の手首を片手で固定したまま日本の頭を撫で、頬へ口付けを落とし艶を帯びた声で囁きながら。
 未だに服を着ていたままだったプロイセンはしゅるりと音を立てながらネクタイを解き、交差させていた日本の手首の上に無造作に置いた。

「このネクタイを絶対に落とすな。落としたら――分かるよな?」
 あぁせっかく綺麗な目ぇしてんだから閉じんじゃねーぞ?」

 ねっとりとした熱が込められたプロイセンの声に日本は頷く。
 二度、三度と今度は約束を破らないから、と訴えるように。
 それをみたプロイセンは満足そうに笑い、日本のこめかみに一つキスを落とした。

「あぁ、いい子だ――」

 プロイセンの親指が日本の唇をなぞったのを出発点に白人特有の白く節くれた男らしい指先が日本の素肌をなぞり始めた。
 綺麗に、というよりは美しいという言葉を思い浮かべる日本の体を軽いタッチで滑るように。
 時には筋肉の筋を、時にはその谷間を触れてゆく。
 ただし日本が確実に感じるであろう部分には一切触れずに。

 その、与えられる刺激の弱さが逆に日本を攻め立てればもっと深い快楽を得たいと日本の体がプロイセンへ訴えかける。
 既に尖っていた胸の先端は更に色見を増し、痛々しいほどに尖り、日本のものはなぞられる場所に合わせてつけられた強弱に同調するかのように腹の上で踊る。
 透明な液体を零しながら、達するには至らない弱い快楽に絡み取られ溺れるように。

「あぁ、そういえばここも好きだっけ」

 ちょうど肋骨が途切れるあたりから腰にかけてのラインをなぞられ日本の体が強く揺れた。
 噛み殺せなかった喘ぎ声と共にびくりびくりと。

「ほんとえっろい体になっちゃったよなぁ」

 丁寧に、丁寧にプロイセンは時間をかけて日本の体を花開かせた。
 それこそ日本自身が羞恥に耐えられず懇願しても、けっして抱こうとはしなかったくらいに。

「ほんといい反応しちゃって」

 嬉しそうに艶混じりの吐息を吐きながら右手で己を支えながら、左手の人差指だけでなぞり続けていたプロイセンはそのまま5本の指全てをバラバラに動かせはじめる。
 先程よりもほんの少しだけ強く、けれど絶頂へと導くことのないゆるい刺激だけを与えるために。

「いますっげぇエロい顔してるって分かってる?」

 欲情を更に煽るように吐息に熱をはらませ囁けば日本の目が見開かれ首を左右に動かした。
 達することの出来無いもどかしさが逆に日本の理性を取り戻させたらしい。
 熟れた美酒のように赤く色づいた日本の体と、溶かされることを待ち望む表情はプロイセンの劣情を更に煽る。
 けれど戻ってきてしまった日本の理性が委ねようとする心にストップを掛けるのだ。

 もどかしすぎる熱が体中を駆け巡り、出口から放たれることを望むのに理性がそれを押し殺す――。
 プロイセンは与える罰は常に体を傷つけることはない。例外は目につきにくい場所に噛み跡をつけるのみ、だ。
 だが今はソレすらしないまま言葉を言う目に見ないもので日本を縛り上げてゆく。
 心も、体も身動き取れぬようぎりりぎの範囲で。

 冷静な口調で喋り続けるプロイセンとてその体は既に熱に侵されている。
 ただ日本に気がつかせないようにしているだけだ。
 その証拠にプロイセンのものははっきりした形を浮き彫りにしていた。
 だが、プロイセンは己のものには一切触れない。ただただ日本を上り詰めてゆくことだけに専念する。
 深い繋がりから得た快楽に見を委ね、達したあと無意識に伸ばされるその腕を引き寄せて、日本の体を強く、強く抱きしめてあげるために。
 虚空を掴むその指先の、更に先に求めるものがあると教え込むために。

 ――今宵もまたプロイセンは己と闘いながら日本に与えてゆく。
 快楽と、満たされる感情と、そしてその更に先にある求めてやまないものがここにあるという現実を。

 すでに限界まで固くなった日本のものを見てプロイセンは柔らかな笑みをこぼす。
 そして日本の耳元で囁くのだ。

 ――俺が欲しいか? と、意地悪さを残したままの声色で。


    ――― END ―――

【 初出:リメイク作品 その1 2012/07/15−TwitLonger『 熟れゆく獲物 』より 】