●錫色の雲が空を覆い隠しながら地上へと降らせ続けていた雪が白く化粧を施してゆく。音も無く、世界を等しく一色に染め上げて――。気が高ぶったまま寝ることが出来なかったプロイセンは火照る体を冷やそうと寝ている日本に気付かれないようそっと外へと出た。赤く染め上げられた襦袢を着込みながら。
●寒さ厳しいドイツに居るプロイセンにとって耐えられない寒さではないようで白い息を吐きながら心地良い空気の冷たさに目を細めた。ゆっくりと顔を動かし庭を見渡せばプロイセンと似た色が見え、ついそちらへと足を向ける。白い白い雪を被りながらも赤い花は色を隠されること無く咲き誇っていたから。
●恋人である日本に感化されるようにプロイセンもまたこの国の四季を愛していた。だからこそ己に近しい色を見つけ、つい近づいてしまったのだ。さくりさくりと足音を立てて。赤い花は着ている襦袢よりも深い色を湛え、渋い緑色の葉に守られながらひっそりと咲く様は恋人を見ているようで好ましかった。
●そういえば、と暇つぶしで読んでいた本の内容を思い出しプロイセンはくっと笑った。あぁでも――と直ぐに考え方を改めプロイセンは愛おしそうにその赤い花を見つめる。葉は雪に埋もれ、ただその白い花だけが白い世界で異才を放つ。まるでこの国の国旗を表しているかのように、白い世界に赤く咲いて。
●時が立つのも忘れ、プロイセンは花を愛でる。腰を屈めて赤い花に口付けて。やがて雪は止み、錫色の雲は消え去り見慣れた濃紺色の夜空が現れる。威風堂々と空に鎮座する満月は光を放つ。プロイセンは淡く、優しい光を一身に浴びながら花を見下ろす。そしてもう一つの花を思い出し、彼は妖艶に笑った。
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●些細な、人によっては下さないと一喝されそうな事で喧嘩した。プロイセンにしても日本にしてもそれが自分自身の中でごく当たり前のこととしてインプットされていたからこそ、意見の相違があった。互いに譲れなまま、けれど謝罪する、ということは正しいと思えずに無情にも時間だけが過ぎ去ってゆく。
●メールでのやり取りは今までと変わらず、けれどどこか寂しさを感じてしまうプロイセンは行動に移す。連絡もせずにいつものように日本の家に勝手に上がれば、どこかぼんやりとした恋人を見つけつい抱きしめてしまった。日本もまた突然現れたプロイセンに抱き締められ、驚いたままはらりと涙を零した。
●泣かしたかった訳でも、悲しませたかった訳でもない。譲れないと思うなら、譲歩出来るところまでとことん話しあおう、とどちらからとも無く言葉が出た。お互いきょとんとしたまま顔を見合わせ、笑い出した。ひとしきり笑いあったあと額をこつりとぶつけ抱きしめて。どちらからともなく顔を近づけて。
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●浅い呼吸を繰り返しながら日本は懸命にプロイセンにしがみつく。日本は胡座をかいていたプロイセンへと自ら腰を落とし、受け入れたのだ。頑なだった理性はとろけ、消え去りただ快楽を求める本能に縋る。月見窓からのぞく微かな明かりを受け日本の潤んだ瞳に光が宿る。抱き寄せたまま目尻に口付けて。
●魅入られ吸い込まれそうなその瞳を見る度にプロイセンの口から言葉が紡がれる。らしくない、と己自身で分かっていても言わずには居られないのだ。美しいものを美しいと思うままに口にし、そのたびに日本の羞恥心を煽りながら口説き続ける。とっくに溺れているのだからお前もここまで堕ちて来い、と。
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【 初出:2012/10/08−Pixiv『 140字SSりくえすと編―09 』より 】
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