月虹の雫



 いつにもまして不機嫌さを顕にする恋人の菊をみて、ギルベルトはあれ? と気がつく。
 妖狐である菊自身から香ってくる匂いがいつもと違い、より甘ったるい。
 まるで熟した果実のように無意識に人を誘う――そんな匂いだった。

 ギルベルトはぺろりと己の口を舐めた。
 菊のテリトリーである自宅の縁側で外を眺めている菊に近づき名を呼ぶ。
 ちらりと菊の視線がギルベルトへと向けられた瞬間、その場所から引っこ抜かれ胡座をかいているギルベルトの上に座らされる。
 文句の言葉が出る前にするりとギルベルトは和服の合わせから手を滑り込ませ、胸にある突起をピンッ――と弾いた。

「ひゃうっ!」

 明らかに色を含んだ声にギルベルトはにんまりと笑みを浮かべ、恋人の素肌を堪能し始める。
 こんな場所じゃぁ声出たら誰かに見られちまうかもな? なんて囁きながら。

 ふっ、ふっと短い菊の声がギルベルトの耳を刺激する。
 それは菊が声を出すまいと懸命に手の甲を己の唇に押し付けているからだ。
 けれどギルベルトからもたらされる愛撫は確実に菊を快楽の波に飲み込ませ、高めてゆく。

 いじらしい奴――そうギルベルトは思う。
 必死にいま声を殺しているのは声を聞かれたい訳ではない。
 貴方だけにしか聞かせたくないのですよ……なんてはにかみながら言っていたのは先月の事だったか。

 後ろから抱き込むように菊を愛撫しているせか、ぱさりぱさりと左右に首が振られるたびに髪がギルベルトの頬を擽る。
 菊? と声を掛ければとろんととろけた表情のまま、ギルベルトを見つめはらりと涙がこぼれ落ちた。
 香り立つ匂いは更に甘さを増し、否が応にもギルベルトの雄は触れていないのに関わらず反応していた。
 張り詰め、怒張しすぎてものが痛いと感じてしまう程度に。

 ギルベルトの大きな手が菊の素肌を上をなぞり、熱を燻らせ、誘う。
 すでに菊の先端は服を濡らし、染みを作っていた。
 しかしまだ菊は口にしない。ギルベルトへとねだる言葉を、気持ちよくなりたいと本能に従う言葉を。

 和服の帯を解き、素肌を月が昇る夜にさらけ出させる。
 ぶるりと身を震わせた菊は懸命に唇を塞ぎ、本能に抗おうと必死に耐えていた。
 そんな菊を見て、ギルベルトの加虐心は否が応にも刺激されてゆく。
 もっと、もっと見ただた顔を、声を、そして己を欲してくれと願ってしまう。

 じっくりと時間をかけ果実が、お酒が円熟されるかのようにギルベルトは時間をかけて菊の体を開いてゆく。
 花が綻び、咲き始めるのを我慢強く待ちながら。体だけでなく心も開いて欲しくて。

 滑り込んだギルベルトの手は手慣れた仕草で菊の服を肌蹴させ、同時に身動きを封じさせた。
 容易に逃げ出せないように、けれど体に負担がかからぬように。

「あぁ、すんげぇー綺麗だ」

 うっとりとした声でギルベルトは言葉を吐き、菊の頬をなぞる。
 体位を変え、床に寝かされた菊は月明かりを浴びて妖艶に、そして淡く光る。
 こぼれゆく菊の涙がきらりと輝き、一瞬だけ虹色の光を放った。

 解いた帯で手首を縛り上げられた菊は観念したのか、か細い声でギルベルトへと告げた。
 最後まで抱いて下さい――と切なげな瞳で見つめながら。


    ――― END ―――

【 初出:2012/09/16 TwitLonger / 2012/09/30−Pixiv『 月虹の雫 』より / 某所にて「緊縛/獣/痴漢」 】